「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第139話
最終章 強さなんて意味ないよ編
<街は大騒ぎ>
「戦争が始まったでは無く、終結したの?」
「はい、そのように報告を受けました」
前回報告を受けた時の話からすると、そろそろ会戦したって言う報告が来るとは思ってたのよ。
ところがギャリソンから伝わったのは会戦では無く終戦。
ならもっとずっと前から戦争は始まってたって事? いやそれならギャリソンは私に知らせていたはずよね。
あっ、それ以前に。
「待って、ギャリソン。あなたは今、帝都に遣わしていた者から報告を受けたと言ったわよね? そんな事をして大丈夫なの? アインズ・ウール・ゴウンを名乗る貴族が帝都内に監視の者を放っていないとは思えないのだけど」
帝都に人を送っていたと聞いた私は少し不安になってしまった。
だって、それが元で私たちの存在が相手に伝わってしまうかもしれないもの。
まぁ異形種ばかりの最凶ギルドとは言ってもそれはユグドラシルの中でと言うだけで、この世界に来た彼らが同じような行動をしているとはとても思えない。
中身は普通の人たちだろうからね。
だけど生産系ギルドの自分たちでさえこの世界に敵は居ないと思えるほどの力を持ってしまっているんだから、その力におぼれて理性が効かなくなっているなんて事もありえるのだから念の為警戒はすべきだと思うのよ。
少なくとも辺境候の座に着いたアインズ・ウール・ゴウンと言う人の、人となりを確認するまではね。
だからこそ最凶ギルドの存在を確認した以上、此方からは動かないと言う事になっていたはずなのにギャリソンが帝都に人を送っていた聞いた私は、その事を攻めずに居られなかったんだ。
でもそこはギャリソンの事、私の不安は杞憂でしかなかったみたいなのよね。
「はい。ですからイングウェンザー城からは誰も派遣して居りません。イーノックカウの商業ギルドへの依頼の形で人を募り、戦争の会戦と終結、それに大きな動きを早馬で逐一報告してもらえるよう手配しておいたのでございます」
「商業ギルド? 冒険者ギルドではなくて?」
「はい。冒険者は戦争には参加しない決まりがあるようですので、冒険者ギルドに戦場の偵察依頼を出しても受注してはもらえません。それに対して商業ギルドには戦況に応じての情報が必ず入ってくるはずですから依頼いたしました」
なるほど、言われて見れば納得。
確かに戦争と言うのはある意味大きな商業活動ですものね。
これによって多くの人と物資が動くし、その趨勢に伴って経済も大きく動く。
戦争が長引きそうなら物資調達の為に物価は上がり、逆の場合は大量の物資が手付かずで戻ってくるのだから物価は下がってしまうかもしれない。
だから戦争の最新情報を商人たちが常に収集しているというのは、言われて見れば当たり前の話なのかもしれないわ。
「なるほど、その情報網から得たのがさっきの終戦ってわけね」
「その通りでございます」
そっか、ならこれはまず間違いない情報ね。
本来なら1ヶ月前後続くはずの戦争が数日で終わってしまったって事は、戦争の為に蓄えておいた物資の殆どがそのまま戻ってくるって事ですもの。
そんな物価を大きく左右するような情報がもし偽物だったらと考えると、かなりしっかりと調査しない限り依頼主に伝えるなんて事はありえないだろうから。
でもそうなると、本当に戦争が数日で終わったって事よねぇ。
「もしかして、戦争にアインズ・ウール・ゴウン辺境候が自分たちの本拠地にいる戦力を投入したとか?」
うん、これならあっと言う間に終わってもおかしくないと思う。
何せグリフォンとかオルトロスのようにこの世界でも有名な魔物はたくさん居るし、それこそ下級のドラゴンでも数匹戦場に並べておけば、それを見た王国貴族やその兵士たちは戦うまでも無く逃げ出すだろう。
「そこは商業ギルドですから、そこまで詳しい事は解って居りません。ただ、開戦前に辺境候の軍がバハルス帝国軍に合流したと言う情報は入っておりますから、その可能性は高いかと」
やっぱりかぁ。
まぁ戦争が速く終わったのはよかったわ。
下手に乱戦になって戦争が長引いたりしたら、いくら後方とは言えヨアキムさんやその副官の少年、ティッカ君が怪我をしたかもしれないもの。
「なんにしても、戦争がそんなに早く終わったんだからイーノックカウから出兵した人たちは誰も怪我なんかしてないだろうし、1ヶ月もすればヨアキムさんたちが帰ってくるでしょう。詳しい報告は彼から聞けばいいわ。今はそれより明日の開店の方が大事よ」
「はい、アルフィン様」
こうしてバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の戦争の話は、私の頭の中からすっかり消えてしまったんだ。
と言う訳で次の日、イーノックカウのフランベレストランとカロッサ領のアンテナショップは開店の日を迎えた。
とは言っても別に広く宣伝したわけでもないし、折角だから開店前に来賓の前で軽く挨拶くらいはするつもりだけど、大々的に開店セレモニーとかをするわけでもないんだから初日はお客さんなんか殆ど来ないだろうって思ってたのよね。
だからその日の朝、私たちはゆっくりと過ごして開店時間に間に合うくらいの時間に馬車で大使館を出たんだ。
「なんか今日は道が混んでるみたいね。事故でもあったのかしら?」
だけどどうやらそれは失敗だったみたいで、今日に限って道がかなり混んでいて馬車が中々進まないのよね。
おまけに店の近くに行くとなにやら人も多くなってきてるようで、私たちが進んでいる方向へと馬車道の両横にある歩道も人であふれ出したんだ。
「この先に中央広場もありますし、もしかするとそちらで催し物が行われているのかもしれませんね」
「ああ、なるほど。そんな日に私たちの店の開店が重なっちゃったわけか。でも、それは人が多く出てるって事よね? なら運がよかったって事なのかな?」
カルロッテさんは、この人通りの多さを見て祭りか何かが中央広場で開かれてるんじゃないかって予想したみたい。
言われて見れば確かにこの人の多さは祭りを連想させるわね。
「はい。この時期ではありませんがイーノックカウの中央市場で開かれる収穫祭の日は、伯爵様が国中から集めた名店がそろって中央広場に出店するので他の都市からもかなりの数の観光客が訪れるそうなんです。私は知りませんでしたが、今日開かれている催し物も同じように人が集まっているのなら、広場近くの店にも多くの人が訪れてくれると思いますよ」
「まぁ、そうだったら嬉しいわね」
私はカルロッテさんの言葉を聞き、開店当日から多くの人で溢れる店とレストランを思い浮かべて思わず笑みを浮かべる。
まぁ実際にそんなうまく行くなんて私も考えてはいないけど、これだけ人が出ていれば食事をするところはどこも満員だろうから、レストランやショップ二階の喫茶コーナーくらいは結構人が入ってくれるかもしれないわね。
そんな事を考えながら、中々前に進まない馬車の中でカルロッテさんとゆったりとした時間を過ごしたんだ。
それから約一時間。
アンテナショップとレストランの開店予定時間を過ぎても、私たちは未だ馬車の中にいた。
「ねぇギャリソン、いくらなんでも進まなさすぎじゃない?」
「はい、アルフィン様。私もそう思い、先ほどヨウコにこの先を見てくるよう先行させました。ですからしばらくすればこの混雑の原因も解るかと」
私がそろそろじれる事くらいギャリソンにも解っていたみたいで、何故馬車がこんなに進まないのかを調べるよう先手を打っていてくれた。
で、しばらくするとヨウコが帰って来たんだけど、その理由というのが一度聞いただけじゃちょっとよく理解できなかったんだ。
「えっと、それはどういう事なの?」
「はい、ですからこの馬車の渋滞はお屋敷を先頭に続いているのです」
・・・えっと、もしかしてこの渋滞、私たちの店へ行くための渋滞って事? いや、まさか。
ありえない理由を聞かされた私はちょっと困惑したんだけど、そんな私を更に困惑させる使者がこの後やってきたんだ。
「アルフィン様、伯爵家の旗を掲げた馬車が迎えに来たようです。いかがなさいましょう?」
御者台に居るギャリソンが、前方の小窓を開けてそんな事を言って来たのよね。
だから私は少し身を乗り出してその小窓から外を見ると、確かにフランセン伯爵家の旗を掲げた小さな馬車が私たちの馬車の前に停まっていた。
おまけによく見ると、馬車道には警備の兵のようなものまで居て、その馬車が通れるようにする為か、前に並んでいた馬車を淵に寄せるよう誘導を始めていたものだから、ちょっとびっくり。
えっと・・・ここまでしてくれるって事は、この騒ぎはもしかしてフランセン伯爵のせい?
ありえるなぁ。
今回オープンするレストランはロクシーさんと私の2人で計画したものだから、普通ならこの町の人にこれだけ広く知られているなんて事はないはず。
でもこれにフランセン伯爵が絡んで来たら? 当然全ての住人が知る事になってもおかしくないわよね。
おまけに食道楽として広く知れ渡っているフランセン伯爵が広めたレストランとなれば、この騒ぎが起こってもおかしくないかも。
まぁなんにせよ、ここまでしてもらったんだから乗らないわけには行かないわよね。
「解ったわ。それじゃあ伯爵の好意に甘えて馬車を乗り換えましょう」
「畏まりました。アルフィン様」
こうして私たちは自分たちの馬車をフランセン伯爵家の者に預け、用意された小さめの馬車に乗り換えたんだ。
「此方に馬車を止める事はできません。中央広場が臨時の馬車置き場になっているのでこのまま直進してください!」
「レストランは本日、すでに予約で満席になっております! 明日以降の予約を希望の方はスタッフの指示に従ってこの列の最後尾にお並びください」
「ショップ二階の喫茶コーナーは入場者が多すぎる為に現在閉鎖しており、入り口横の臨時カウンターでのテイクアウトのみとなっております。また列最後尾は館裏手まで延びていますので、ご希望の方はそちらにお回りください」
・・・ホント何事よ、これ。
私たちを乗せた馬車は伯爵家の手配で、全ての馬車を追い越して無事館へと到着。
流石にこの混雑では正門から入る事は叶わなかったからレストラン裏手にある貴族用の入り口から中へと入ったんだけど、ギャリソンのエスコートで馬車を降りた途端こんな声がそこかしこから聞こえてきたんだ。
「アルフィン様。申し訳ありません。このような事になってしまって」
「お疲れになったのではないですか? アルフィン様。わたくしもまさかこんな事になるとは思わず、つい伯爵に今日の事を話してしまいまして。本当に申し訳なく思っておりますわ」
予想外の展開に私が目を白黒させていると、馬車の到着の知らせを受けたのかフランセン伯爵がロクシーさんと共に私たちの元へとやってきた。
2人の口調からすると、どうやらこの騒動はやっぱりフランセン伯爵が原因らしいわ。
とは言っても別に彼に悪意があったわけじゃないのよ。
彼は彼なりにロクシー様からこの店の開店日を聞いて、盛り上げてくれようとしただけみたいなんですもの。
「私はいつも贔屓にしているレストランのオーナーや、この町の貴族たちに話しただけのつもりだったのですが、その者たちから商業ギルドに話が伝わってしまったようでして」
ただ彼が思っていた以上に私たちの国のお酒や料理の評判がこの町で広がっていたみたいで、商業ギルドに話が伝わるとすぐさま調査が入り、レストランでは貴族や大商会の経営者等の一部の金持ちだけじゃなく平民でも利用できるように色々な値段設定の料理を出す予定だとか、ショップ二階の喫茶コーナーは近所に住む人たちに普段から使ってもらえる価格帯設定にするみたいだって事が知られていたらしいのよ。
「その上ショップでは都市国家イングウェンザーの果物を使用したジュースや、前にわたくしが試飲させて頂いたチュハイと言う新しいお酒を販売する事まで知られてしまったらしく、この様な騒ぎになってしまったようなのですわ」
なるほど、確かに話題の店がオープンすると言う情報が出回ったというのであれば一種のお祭りのようになっても仕方がないのかもしれないわね。
新たにオープンする店と言うのはただでさえ注目を集めるのに、それが我が都市国家イングウェンザーとロクシー様の共同経営。
おまけにその貴族どころか他国の王族が絡んでいる店を普通の人たちでも気軽に使えるとなれば、実際にお金を使わなくてもただ見に行くというだけで楽しめそうだもの。
これだけの人が集まってもおかしくはないわね。
「それだけではありませんぞ、アルフィン様。あれです、あれが人々の関心を更に呼んでいるのです」
そう言ってフランセン伯爵が指差したのはケーブルカー式エレベーター。
でも何故? 動いているときならともかく、ただそこにあるだけなら一見すると3階へ急な階段が付けられているだけのようにも見えるのだから、そんなものに注目が集まるなんておかしいくない?
「あれが、ですか? でも、動かしては居ないようですし、それならばあれが何か解る者はいないと思うのですが」
「アルフィン様。確かに今日はまだ動かしては居りません。ですがオープンに先立って安全確認の為に何度か試運転はいたしましたわ。わたくしも一度乗せていただきましたもの。あれは貴重な体験でしたわ」
実際に乗った時の事を思い出したのか、うっとりとした表情を浮かべるロクシーさん。
そして、
「どうやらその試運転を見た者たちがその様子を色々な所で話して周ったようで、人を高い所へ運ぶ魔道具というものを一目見ようと集まった者も多く居るようなのです」
その試運転が評判となってより人を集めたようで、今も何時動き出すのかと楽しみにしている人たちがエレベーターが見える側の道や庭園に溢れていると、フランセン伯爵は私に教えてくれたのよね。
「ですが、今日は3階の個室は使用しないという事になっていたのではないですか?」
「はい。本来はこれ程の人が集まるなど予想もして居りませんでしたので、簡単なオープニングセレモニーの後、レストランの二階席で少数の招待客とささやかなパーティーをする予定でございました。しかし、あまりの人出の多さに二階席も予約ですでに埋まってしまいまして。それに招待客たちも、あのエレベータの噂を聞いたらしく」
「ああ、本人たちも乗れると思って楽しみにしてるわけね」
「はい、そうなのです」
フランセン伯爵の言葉で私は納得した。
確かに他にはない人を高い所へと運ぶ魔道具が設置されたレストランの開店披露ですもの、招待された人たちはそれに乗れると思ったとしても仕方がないわね。
でも急に会場を変更しても大丈夫なのかしら? 私はそう思いながら店の入り口のほうへと目を向ける。
建物が邪魔で実際にその様子をここから眺める事はできないんだけど、ここまで聞こえてくる喧騒から人員的にそれだけの余裕はないように思えたんだ。
「アルフィン様。大使館より人を此方に派遣しても宜しいでしょうか?」
すると私の心を読んだかのようにギャリソンが、そう提案してくれたんだ。
うん、流石に頼りになるわね。
私は1も2も無くその提案に乗る事にした。
「そうね、この状況では元々ここにいる者たちだけでは対応できないでしょうし、何よりこれだけの人が集まっては商品が午前中も持たないでしょう。急いで手配するように連絡をお願い。後、フランセン伯爵」
「はい」
「申し訳ありませんが、どこかの道を閉鎖して頂けないでしょうか? 大使館から物資を運ぶにしても、この混雑ではたどり着くことができませんわ」
「解りました。おい、すぐに手配しろ」
と言う訳でギャリソンに指示を出すと彼は一礼してこの場を後にし、続いてフランセン伯爵にお願いすると、彼は近くに居た執事にすぐ手配するよう指示を出してくれた。
と言う訳でとりあえずは一安心かな? なんて思った私が甘かった。
「ところでアルフィン様、もう一つお願いがあるのですが」
「お願いですか?」
ホッと一息ついていた私に、ロクシーさんが申し訳なさそうに話しかけてきたのよね。
で、その内容はと言うと・・・。
「おお、あれが噂の白銀の姫様か」
「噂どおり、とても可愛らしい!」
「アルフィン様ぁ〜! きゃあ〜、こっちを見て手を振ってくれたわ」
私は動物園のパンダか、それともどこかのアイドル歌手か。
今私はゆっくりと昇っていくエレベーターにロクシーさんと2人で乗り、その上から観衆へと笑顔を振りまきながら手を振らされている。
と言うのも、
「申し訳ありません、アルフィン様。試運転の時、つい楽しくなってエレベーターが登って行く時に手を振りましたら、集まった人々に思いの他喜ばれまして」
ロクシーさんがこんな事をしたせいで集まっている人たちが私もやってくれると期待しているそうで、もしやらなければ暴動に発展してしまうかもしれないって言われちゃったんだ。
「アルフィン様〜! ロクシー様ぁ〜!」
「バハルス帝国、バンザ〜イ! 都市国家イングウェンザー、バンザ〜イ!」
なにやらよく解らない盛り上がりの中、たっぷりと時間をかけて登って行くエレベーターの上から笑顔で声援に答え続けるアルフィンとロクシーであった。
あとがきのような、言い訳のようなもの
戦争から新オープンの話題のスポットまで、商業ギルドの情報網は優秀であると言うお話でした。
さて、戦争が始まって、終わりました。
その理由は語るまでも無く皆さんご存知でしょう、何せ先週アニメで放映したのですから。
でもそれを知らなければアルフィンのように考えてもおかしくないと思うんですよね。
あまり知られていないモンスターならともかく、ドラゴンが何匹も相手陣地に居たら、私ならまず逃げ出しますからねw